TAMAI WINEについて
初めまして、長野県飯綱町でワインブドウを栽培しているTAMAI WINEの玉井勝浩です。
2020年より、四季の変化が美しい長野県飯綱町に移住し、ワインブドウを栽培しています。
移住後2年間は近隣のワイナリー様で2年間の研修(うち1年は醸造研修も)を受け、その後農家として独立。
独立後は長野県塩尻市や北海道三笠市のワイナリー様で醸造の研修を受けながら、自分のブドウを委託醸造しています。
将来は年産7,000本程度の小さなワイナリーを設立し、家族で力を合わせて栽培/醸造を行います。
私がワイン造りを始めたきっかけは二つあります。
一つ目は、好きなことを仕事にしたいとの思いです。
移住前は東京でIT関係の会社で働いていました。どういうわけでワインを飲み始めたかは覚えていないのですが、都内にはワインショップが多くあり、休日は試飲会に出かけてはワインの飲み比べをしたり、ピノノワールで有名なニュージーランドのセントラルオタゴに行ったこともありました。ワインスクールにも通うなど、次第にワインの奥深さに魅了され、「ワインを仕事にできたらいいのに」という想いが募っていきました。
二つ目は、私の出身地は長野県長野市ですが、実家がりんごの兼業農家で子供の頃から畑という場所が身近にあったことです。
春は花摘みを手伝い、夏は早朝の農薬散布機の音で目が覚め、秋には家族総出でリンゴを収穫し、休憩にはもぎ取ったばかりのリンゴを食べる。冬の畑は寂しげですが、雪が解けると虫が動き出してまた一年が始まる。ワインに関わる仕事の中でもワインを造る農家になりたいと考えたのは、子供の頃からの原体験が意識の底にあるのだと思います。
ワイン農家となった今でも、毎日畑に出て陽の光を浴びてブドウと向き合う日々はやはり私の性分に合っていると感じます。
ワイン造りは農業の延長線上にあると考えています。
原料はブドウのみというワインの特性上、ブドウの味わいがワインの味をつくります。農業を始めてから強く意識するようになりましたが、例えば米もりんごも野菜も、品種、気候、土壌、そして栽培者の考え方によって味わいが異なります。ワインも同じです。
私は、「ブドウが育まれるこの土地の風土を映すワイン」を造りたいと考えています。
なぜならば、(ブドウたちがどう思っているかはわかりませんが、)ブドウ自身にとっては土地の個性を表現しているワインになることが農産物としての本望であり、私にとってはこの土地の風土をワインで表現することがこの土地から恵みをいただいているものとしてできる恩返しであると考えるからです。
そのために私が考えなければならないことは、”ブドウが健全に生育し熟すことができる環境をいかに整えることができるか”です。
それが農業者としての私の役目であると考えています。
駆け出し者のワイン農家ですが、皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
飯綱町について
私のワイン畑がある飯綱町は、長野県北部に位置する小さな田舎です。
一番近いワイン産地としては、長野県高山村があります。
なぜ飯綱町でワインブドウを栽培することにしたかですが、まず県としては、質の高いピノノワールが生産されている北海道か長野県が頭に浮かびました。長野県は土地勘があり移住のハードルが低かったこと、そして長野県で生まれ育った私がその土地でワインを造ることに何か意義があるのではないかと考え、長野県を候補地としました。
そして長野県内で畑を探すにあたり、冷涼な果樹産地であることを条件にしました。具体的にはなるべく標高や緯度が高く、ブドウでなくとも果樹の栽培が盛んである場所として候補に挙がったのが飯綱町です。
飯綱町は標高が高く、町全体が丘陵地形で傾斜地が多いために、水はけと日あたりが良い土地柄であることから、昔からリンゴの栽培が盛んです。
気候条件としては、冬の降雪により春の訪れは遅く、私の畑がある地区は北傾斜の丘陵地のために夏でも北寄りの冷涼な風が吹きます。そして秋は昼夜の寒暖差が大きく、冬は30~80㎝程の雪が積もります。また、内陸性気候のため日照量が豊富で、ブドウの生育期(4~10月)の平均降水量は717mm(*1)と少ない土地です。
また、飯綱町の皆様の人柄に惹かれたのも理由の一つです。
移住前に飯綱町役場の職員さんや住民の方にお話を伺った際、私たちはよそ者であるにもかかわらずオープンに温かく接してくださいました。
ワインを造るということは、その土地で生活していくことになりますので、ここならば家族も安心だと感じました。
これらの経緯から、飯綱町であればきっといいブドウができるのではないかと考え、飯綱町でワインブドウ栽培を始めることにしました。
(*1) “飯綱町ってどんなところ?”, 飯綱町観光協会HP, https://1127.info/about/, (2024-12-20)
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長野県北部の小さな田舎
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冬は雪が降る飯綱山麓
畑
畑の標高は約600m、植栽面積は2024年12月時点で約1.3haで、約2,800本のブドウ樹を育てています。
立地としては標高1,917mの飯綱山の麓でちょうど丘の上に位置しており、いずれの畑も傾斜があります。
うち2割ほどは農薬散布機が入れないほど急な斜面です。斜面が急だと作業をする人間にとっては大変な畑ですが、水はけが良く、凝縮したブドウが実るのではないかと期待しています。
また、日あたりはとてもよく、日の出とともに日が当たり、日没はいつもブドウ畑を見守ってくれる飯綱山のおかげでやや早めです。日没が早いことで、夕方~夜間にブドウの果実温度が速やかに下がるため、糖度の上昇と酸抜け防止にプラスに働くようです。
なお、私の畑の特徴的な地形は飯綱山の山体崩壊によるものと思われます。
文献(*2)では、約23~22万年前、当時は活火山であった飯綱山が山の形が変わるほどの大崩壊(山体崩壊)を起こし、飯綱山を形作っていた溶岩層などがほぐれきらずに巨大なブロックとして流されました。これが私の畑の地形の由来であると思われます。
以上の背景から、畑の土壌は火山性土壌です。
仕立ては垣根のギヨ仕立てで、垣根の方向は太陽の光を有効に活用できる南北方向が基本です。
植栽間隔は1~1.5mで、畑の地力と品種&台木の組み合わせを考慮して、植栽間隔を変えています。
品種は、メインはピノノワールで、他にシャルドネ、ガメイ、テーブルワイン用一品種(*3)の計4品種を栽培しています。
品種選択の方針としては、ワインとして私自身が好きな品種であることと、そしてとがった品種個性はなくとも、繊細な日本食とあわせたり、幅広い料理が一斉に並ぶ日本の食卓に合わせやすいであろうとの考えから、これらの品種を選んでいます。
また、品種より細分化された概念として、系統(クローン)という概念があります。
ピノノワールにおいては9系統、シャルドネにおいては6系統、ガメイにおいては2系統と不明1系統を植栽しています。特にピノノワールは系統ごとに糖度の上昇、酸の残り方、生み出すアロマが異なるといわれており、複数の系統がブレンドされてワインに香りの豊かさや複雑さが生み出されるといわれています。これから大切なのは、系統ごとの特徴をとらえ、目指すワインのスタイルに応じて、栽培と醸造に生かすことであると思います。
(*2) 竹下 欣宏, 火山灰層とローム層から見た飯綱町周辺の大地の成り立ち, いいづな歴史ふれあい館紀要9, 2022年, p25-39
(*3)ワイン用として長野県内では実績がない品種のため、無事に収穫できた時に品種名を公表致します。
栽培
栽培においては、常に”ブドウが健全に生育し熟すことができる環境をいかに整えることができるか”を考えています。
ブドウを収穫するまでには多くの作業が伴いますが、いずれの作業も人間の都合で行うのではなく、ブドウにとっていいと思うタイミング、方法を推し量るようにしています。生育期に病気の発生を防ぎながら、収穫期に収穫のタイミングを選べる状態に持っていくため、新梢の誘引、副梢取り、花カス取り、農薬散布といった基本的な作業を適切なタイミングで丁寧に行うことを大切にしています。
なお、化学農薬(殺虫剤、殺菌剤)は使用しています。
「化学農薬を使用するか否か」については、「化学農薬を使わずとも、持続的な栽培が可能であるか」を見極めることが大切だと考えています。
私が栽培しているピノノワールという品種は、果皮が薄くかつ果粒同士が密着しているために病気や腐敗に弱いという品種特徴を持ちます。また、私の畑の特性として、地力が豊かでブドウ樹の樹勢が強いことで果粒同士の密着度がより高まりやすいことと、農薬で保護できていない果実はブドウトリバという虫の食害を受けることなどが課題となっています。ただ、生態系や環境への負荷を減らし、畑を持続的なものにしていくためには、農薬は最小限にとどめたいと考えています。
ブドウにとっては、この土地に植えられたこと自体が心地よいとは思っていないかもしれませんが、植えた私の責任として、この土地でピノノワールを持続的に栽培していくために何が必要であるかをよく見極めていかなければならないと思います。
収穫期が近づくと、7~10日間隔でブドウの糖度とpHを計測し、味わいを確認して収穫のタイミングを検討します。
果実の成熟は畑でしか得られない一方で、傷みが少ないブドウであることもワイン造りには大切です。収穫のタイミングはワインの質に大きく影響するため、まだまだ試行錯誤が必要ですが、傷みの状況とpHの値が許す限りは成熟を待つようにしています。
収穫の際は、ブドウを傷つけないよう注意しながら、傷んだブドウを一粒一粒取り除きます。
これからブドウの収穫量が増えてきますので、今後、一緒にブドウの収穫をしていただけるボランティア様も募集させていただければ幸いです。
醸造
まだ自分のワイナリーがないため、収穫したブドウは他のワイナリー様に委託醸造しています。
醸造については、これまで3つのワイナリー様で研修させていただきました。
1つは選抜酵母と亜硫酸を使用し、クリーンなワインを造るワイナリーです。
もう2つは野生酵母&亜硫酸少量という点は共通していますが、ワインの方向性は全く違うワイナリーです。
それぞれに哲学があります。
この土地の風土を映すワインを造るため、自分のブドウを委託醸造しながら、自身が信じる手法を見出していきたいと思います。
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醸造作業の様子
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北海道での醸造研修
トウモロコシ栽培について
実はブドウの他にトウモロコシを栽培しており、その紹介をさせてください。
ブドウは苗木を植えてから収穫するまでに約3年、それからワインになるまで半年~1年の歳月を要します。その間のワイン造りの事業費を確保するためにトウモロコシを栽培しています。
ブドウの片手間と言えば片手間ですが、農業者としてはトウモロコシの栽培で得られるものは多くあり、ブドウと同じくらい手をかけて栽培しています。
畑の場所は標高950mの飯綱東高原で、美味しいトウモロコシを生み出す地元の人ぞ知る産地です。
豪雪による雪解け水と昼夜の寒暖差が育む、みずみずしくも甘みが凝縮したトウモロコシをご賞味いただけましたら幸いです。
書き出すと長くなってしまいましたが、お付き合いいただきましてありがとうございました。
人として農家として未熟者でありますが、地道に歩んでいきたいと思います。
皆様どうぞ、よろしくお願いいたします。
TAMAI WINE 玉井勝浩